私がコンポスト専門店を始めた理由

私がコンポスト専門店を始めた理由


「そもそも、なぜ、コンポスト屋さんを始めたんですか?」


よくこの質問を聞かれます。
考えてみれば、こんな聞いたこともない変わった店を開こうなんて、相当、珍しい人なのかもしれません。


私としては、ある時「コンポストの専門店があったら面白いかも」と思いつき、そのままどんどん進んでいったら、今にいたるという感じです。

自分の性格として「誰もやったことがない」ことをやりたいところがあるので、もし、世の中にコンポスト専門店なるものがすでにあったら、やっていなかったように思います。


とはいえ、コンポスト屋さん開業に至るまでには、ここ数年のいくつかのきっかけが不思議に重なっていました。ちょっと長くなりますが、紹介させていただきますね。

🔳きっかけ その1  ある日見つけた環境問題の新しいネタ


私は前職ではNHKの番組制作の仕事をしていました。学生時代から環境問題に関心があったため、入局以来ずっと、折を見ては環境関連の番組を作り続けていました。

だいぶ昔のことですが、NHK仙台放送局にいた新人ディレクターの頃、一番最初に自分で企画して作った小さなニュースリポートが、仙台市中心部の広瀬川沿いでチョウゲンボウ(小型のハヤブサ)が巣立ちをした、という話でした。食物連鎖の頂点にいるチョウゲンボウが暮らしているということは、仙台市という都市の中にも豊かな生態系が息づいているというストーリーとして作りました。


その後も、森林保護や地球温暖化、食料問題など、いろいろなテーマで番組を作ってきたのですが、30年もやっているうちに、だんだんと、いつも同じような話を、手を変え品を変えて繰り返しているような手詰まり感が出てきていました。

そんな中、2020年のある日、「土・牛・微生物~文明の衰退を食い止める土の話」という本を読んでいたら、あっと驚く話が出ていたんです。

それは、土の中に微生物を増やすことによって土壌に炭素を吸収させ、気候変動をひきおこす大気中の炭素を減らすことができるということ。そして、それを大規模に実践している農家がアメリカにいるという話でした。今では日本でもよく知られるようになったリジェネラティブ農業(環境再生型農業)という手法です。


「土壌に炭素を吸収させる」という話を聞いたことのなかった私は、「えっ、こんなことができるの!」とワクワクしました。調べてみると、NHKでも、まだ番組でやったことのない分野でした。「これは久々の、環境問題の新ネタになるぞ」と、早速、リサーチを始めて、番組の企画書にしていきました。(この取材の成果は、2022年「カーボン・ファーミング〜環境再生型農業最前線〜」という番組になって、BS1とNHKワールドJAPANで放送しました。)

この仕事をやりながら、土や微生物のことを調べ続けていくうちに、どんどんその面白さにはまり、自分でも何か”リジェネラティブ”なことをやってみたいという気持ちがむくむくと起きてきました。
そこで、思いついたのが、食べ物を土に還して土壌の微生物を増やすことができる、生ごみコンポストだったんです。


🔳きっかけ その2  コロナ禍とレジ袋有償化

その頃は、ちょうどコロナ禍でリモートワークが多く、通勤時間がなくなった分、新しいことを始めやすい時期でした。さらに、もうひとつ、プラスチックごみ削減のためのレジ袋有償化というのも始まっていました。 「コンポストをやればゴミをいれる袋も減らせるな」ということも重なって、コンポスト生活をスタート。



ぼかし型、庭に置くドーム型、バッグ型など、興味のままにいろんなコンポストを試す中で、ネットで見つけたのが、土で生ごみを分解する「キエーロ」です。

早速、自分で、有り合わせのもので手作りしてやってみたところ、拍子抜けするほど簡単で、ちゃんと生ごみが消えていきます。

これは面白いと、本格的に始めようとしたのですが、なんと、キエーロを買えるところがないのです。

その後、いろいろ伝手をたどって、木製の土置き型キエーロを作ってくださる方をご紹介いただき、庭に設置することができました。

この経験を通じて、キエーロやバッグ型など、とても使いやすくて、デザインも良いコンポストがあるにもかかわらず、あまり店で見かけることもなく、知らない人が多いのが残念だなと思うようになりました。

🔳きっかけ その3 定年退職

さらにその頃、私は50代後半、もうすぐ定年退職というタイミングでした。
テレビの仕事は好きでしたが、人生で何かもうひとつ違うこともやってみたいなと思い、何をしようかとあれこれ考えるのが「趣味」みたいになっていたのですが、そこで、思いついたのが「コンポスト屋さん」でした。
自分のように、コンポストをやろうと思い立った人がいたら、コンポストってどんな風に使うのか、どれくらい臭いがするのか、などが知りたいはずだけど、なかなかそれを実際に確かめて、気に入ったら買えるところがないなあと。また、このなんでもネットで買える時代だけに、もっと、コンポストを気軽に買えるようになったらいいなと、思ったのです。

「ならば、私がやってみようか」


そこで、退職の半年くらい前から、起業について本を読んだり、講座に参加して学び始めました。


だんだんとアイデアが固まり、準備は進めていたものの、まったく誰もやったことがない業態なので、「これはただの妄想?。本当にやるの?」とも思えたりして、モヤモヤしていました。

🔳きっかけ その4 シニアビジネスグランプリ 

そんな時、最後に背中を押してくれたのが、東京都のシニアビジネスグランプリでした。

これは、55歳以上の人がエントリーできる、シニア起業に特化したコンクールです。
「循環型生活を広げるコンポスト専門店」というビジネスプランで応募したところ、10人のファイナリストに選ばれて決勝に出場。結果はまさかの最優秀賞&オーディエンス賞のダブル受賞でした。

売上見込み何億円・・・ではない、こんなささやかなビジネスが選ばれるなんてびっくりなんですが、循環型社会を作る、というコンセプトに共感してくださった方が多かったようです。
この受賞によって、「私だけの思い込みじゃない。面白いと思ってくれる人がいるんだ」と思うことができ、ついに、創業に踏み切りました。

そんなこんなで、コンポスト屋さんを開いて、今にいたっておりますが、今のところ、日本唯一のコンポスト専門店のようです。

コンポスト制作のアトリエ兼実店舗は、週末に営業していますが、コンポストを見に遠くからご来店くださる方も多く、「コンポストを買う前に実際に見てみたい」というニーズは着実にあったということを嬉しく思っています。

実は、コンポスト専門店を作ろうとした理由がもうひとつ。
前職で取材を仕事にしていた頃から感じていたのですが、あるジャンルのモノや文化が広がっていく課程で、「専門店ができた」というのは、ひとつのステップになるということ。

企画ニュースや記事で、「最近では専門店も登場」という話をよく聴きますよね。

専門店があると、ニーズの存在や情報の集積が「店」という形で具現化し、目に見えるようになります。
メディアも、そのジャンルの情報を知りたいときは、とりあえず専門店に話を聞きにいけば、だいたい状況がわかり、企画が立てやすくなります。
(だいたい、最初に何かの専門店を作る人って、ちょっと変わっててこだわりがあって、面白い方が多いんですよね笑)


食べ物の残りを土に還し、次の命の栄養にする「コンポスト」は、世界中どこの国でも、昔から人々が実践してきた営みであり、「食の循環」を暮らしの真ん中に位置付ける文化でもあると思っています。
生産→消費→廃棄が一方通行になってしまった今だからこそ、この循環を取り戻し、みんなの手で、現代の暮らしにあった形を作って受け継いでいけるといいですよね。


小さな店ではありますが、コンポストフレンズが、コンポスト文化の発信のお役に立てればいいなと願っています。



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